ひかり拓本技術で蘇った碑文と防災

 

神社や道路脇などを歩いている際に古い石碑があることに気付くと思いますが,石碑にどんな意味があるのか考えたことはありますか?実際のところ,石碑は時代を経ると表面の摩耗,カビ,苔の繁殖が進んで文字の判別ができなくなり,多くが忘れ去られる運命にあります.しかし,石碑には、当時の住民の苦労が刻まれた,今日の我々にも通じる重要なメッセージが含まれています.災害に関連する石碑も多く確認されており,復旧を記念するもの,犠牲者を慰霊するもの,災害の経験と教訓を次世代に伝えるものなどがあります.中には、メッセージの判読が難しく、伝承が途絶える恐れがある災害石碑もあります。そこで、風化しつつある災害石碑のメッセージを蘇らせ,また,読める内に鮮明化して次世代に記録を残す取り組み(一般社団法人北部九州河川利用協会令和3年度河川推進支援事業の支援)を実施しました.

石碑防災の取り組みはこちら ⇒ 災害は歴史に学び 逃げ後れゼロ 石碑に学ぶ防災

 石碑に記された碑文メッセージを蘇らせる技術として拓本(湿拓、乾拓など)があります.その方法の基本は,石碑の表面に紙を貼って,その上から墨とタンポを使って石碑に刻まれた文字を読み取っていきます.しかし,従来の拓本は,時間も手間もかかり,文化財としての石碑を汚損する恐れがあります.そこで,従来の拓本とは異なる方法で石碑の文字を読み取るひかり拓本技術(独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所 上椙英之氏の開発)を採用しました.

 その方法(下の写真)は,ライトを使って石碑の表面に光を当てて文字の影を作り,文字を浮き上がらせた状態で写真撮影するといった簡便なものです.その作業に関して,ライトの当たる角度を何度も変えながら繰り返し撮影します.最後に,解析ソフトを使って複数の画像を合成し,碑文の影だけを取り出して文字を判別できるようにします.その方法では,石碑を汚損することはなく,何より時間と手間を大幅に省くことができて,今後の碑文解読が飛躍的に進むことが期待されます.

                     写真: 奈良文化財研究所 上椙英之氏の提供

 

ひかり拓本についての詳細はこちらをご覧ください ⇒ ひかり拓本データベース(東北大学)

 このホームページでは,うきは市にある多くの石碑の中から,災害に関連する石碑の文字を蘇らせ,地域の災害リスクと比較しています.下記に紹介していますのでご覧ください.

 

石碑名 内容
大村復興碑 享保5年7月九州北部豪雨 深迫谷土石流と巨瀬川の氾濫で大村全滅
朝田水害記念碑 生葉郡 溝尻村 朝田村 隈上村ページ内
昭和21年(1946)7月8日 巨瀬川氾濫
妹川六地蔵(妹川地区笹尾) 享保5年7月九州北部豪雨 妹川村元有の被災記録
妹川六地蔵(合瀬耳納峠) 享保5年7月九州北部豪雨 吉井から星野への峠道被災か?
山潮記念碑 屋形村ページ内 昭和21年(1946)7月8日 西屋形の土石流災害